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亥の子餅はノスタルジックな和菓子!炉開きで出される理由とは?

      2017/11/27

コロンとしたフォルムが可愛い「亥の子餅」。
旧暦の10月の最初の亥の日に食べると病気をしないという縁起の良い和菓子です。
一般の方にはあまり馴染のない和菓子ですが、茶の湯の正月といわれる炉開き(ろびらき)に出される祝い菓子として、茶人にとって意義深いものとなっています。
そこで今回は、
亥の子餅について、さらに亥の子餅が茶道の炉開きに出される理由についても見ていきましょう!

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亥の子餅(いのこもち)

亥の子餅は、亥の子というお米の収穫を祝うお祭りで食べる餅菓子です。
ほんのり茶色に染めた餅生地で小豆あんを包み、表面には猪の子(うり坊)を表現した焼き模様をいれており、見た目や口に広がる素朴な味わいは郷愁を感じさせます。(※焼き模様のないものも多い)
この亥の子餅を「亥の月の亥の日、亥の刻」に食べると病気にならないという昔からの習わしがあります。

ちなみに、2017年の亥の月(※旧暦10月)の最初の亥の日は、2017年11月20日(月)になります。

また亥の月の最初の亥の日を「玄猪(げんちょ)の日」ということから、「玄猪餅」や「厳重餅(げんじゅうもち)」と呼ばれることもあります。

古い歴史を持つ亥の子餅

亥の子餅の歴史は古く、古代中国の宮廷儀式「亥子祝」で食べらていたお餅が亥の子餅だといわれています。
「亥子祝」は、旧暦10月の亥の日、亥の刻に穀類を混ぜ込んだ餅を食べると病気にならないという無病息災を願った儀式で、また亥(いわゆる猪)がたくさん子を産むことにちなんで子孫繁栄を願う儀式でもありました。
この儀式が日本に伝わり、平安時代の宮中では亥の形をした餅を献上する行事として取り入れられました。

興味深いことに、長編小説「源氏物語」では「葵」の巻にて亥の子餅が登場しています。

源氏物語での亥の子餅
主人公の光源氏が妻の紫の上との新婚二日目の夜に亥の子餅が登場するシーンがあります。
このシーンには「亥の子餅」に子宝を願う思いが込められているのですが、最終的に紫の上は病に倒れてしまい、子を産むこともなく亡くなってしまうのです。

鎌倉時代の文献によると、当時の亥の子餅は、新米と一緒にその年に収穫した大豆、小豆、ささげ、ごま、栗、柿、糖の7種類の粉を混ぜて作り、滋養強壮の栄養素(糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)が豊富に含まれていたお餅だったそうです。
まさに子孫繁栄を願うお餅だったことが伺えます。

江戸時代になると、亥の月の最初の亥の日に行う「玄猪の祝い」が一般庶民の間にも広がり始め、無病息災と子孫繁栄を願い、お餅食べるようになりました。
また農家では丁度、稲の刈入れが終わった時期であったことから、田の神様に収穫を感謝し、新米で作った亥の子餅を供える風習となり、これがいわゆる「亥の子祭り」と呼ばれるお米の収穫祭になりました。

亥の子餅の移り変わり

亥の子餅は、大豆や小豆などの穀物7種類を新米と一緒に混ぜて作ったお餅でしたが、その後、白・赤・黄・胡麻・栗の5色のお餅になり、さらには、小豆の入った薄い茶色の餅生地と変化してきました。
一方、お餅のまわりに小豆のあんこをつけるようになり、亥の子餅から牡丹餅(ぼたんもち)に、そして「ぼた餅」へと変わったともいわれています。(※猪鍋のことを牡丹鍋(ぼたんなべ)というように猪のことを牡丹という)
参照⇒ぼた餅とおはぎの違い

現在では、作られる地方や和菓子店によって味や食感、形までも違っており、その店独自の味を表現しています。
例えば、あんには、舌触りや食感を楽しめるように、こしあんや粒あん、白あんを使い分け、生地はシンプルな餅生地のものや求肥にゴマや干し柿を混ぜ込んだものだったりと、バリエーション豊かになっています。

亥の子餅の「亥」とは何?

さて、亥の子餅の「亥」とは何でしょうか?
お察しの通り「亥」は猪のことで、十二支において、年や月、時刻、方位を表すときに使われています。
年賀状でその年を表したり、生まれた年を説明する時に使ったことがあると思います。
亥の子餅の亥とは
上の図を見ていただくと「亥」は「10」を表しています。
(※亥の刻は午後の10時頃(21時~23時))
つまり、亥の月、亥の刻は、10月(旧暦)、午後10時頃を指しています。

さらに、十二支が陰陽五行説と結びつくことで、「亥」は、季節を「冬」、性質を「水」とする意味を持つようになりました。

陰陽五行説とは
古代中国の考え方で、この世のすべてのものが木・火・土・金・水の5つの要素から、または組み合わせから出来ているというもの。
季節もこれにあてはめられ、春を木、夏を火、秋を金、冬を水とし、その間を土としています。

この「亥」の持つ「水」の性質が「火事を防ぐ」という考えから、江戸時代には火にまつわる習慣が生まれます。

茶の湯の世界でも欠かせない亥の子餅

亥の子祭りにおいて、亥の子餅はお米の収穫を祝う大切なお供え物ですが、茶の湯の世界でもなくてはならない存在となっています。
と、いうのも茶道では、亥の月の最初の亥の日に「炉開き」を行う慣習があり、その「炉開き」の茶会の席で亥の子餅が出されることが多いのです。

亥の子餅と炉開き

出典:http://www.tenki.jp/suppl/yasukogoto/

炉開きとは
茶道では、お湯を沸かすのに、5月~10月の暑い時期は卓上式の「風炉(ふろ)」を使い、
11月の亥の日からは茶室のたたみを切って床にそなえつけられた「地炉(じろ)」を使います。
このように風炉を使うのをやめて、地炉を使い始めることを炉開きといいます。
炉開きでは、その年の新茶を使い(口切(くちきり)という)、また茶室のたたみや障子も新しくすることから、茶の湯のお正月ともいわれています。

炉開きで亥の子餅が出される理由

前述の「亥とは何」で説明した通り、五行説では「亥」は水の性質を持ち、「亥は火を防ぐ」と考えられていました。
すると、江戸時代の庶民の間では、亥の月の最初の亥の日に行う「玄猪の祝い」に、亥の子餅を食べ、この日から火鉢や囲炉裏、炬燵(コタツ)を使い始めれば、火事にならないという習慣が広まりました。
その習慣が茶道でも取り入れられ、炉開きを「亥の月の亥の日」に行い、炉開きの席では亥の子餅が出てくるようになったといわれています。
今では炉開きの茶席菓子として、茶の湯の世界では欠かせない和菓子となっています。

最後にひとこと

11月の初亥の頃は、朝晩の冷え込みも厳しくなり、秋の深まりを感じる時期です。
地域によってはまだ早いかもれしませんが、「亥の日から火を使い始めると安全」という習慣を取り入れ、暖房器具を押入れから出してみてはいかがでしょうか!
冬支度をしながら、熱いお茶でうり坊に似た亥の子餅を食べれば、小さな火が灯ったように心もほっこりします。

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